2013年01月09日

作詞の作法 その2

前置きカットしていきましょう。

※ 前回に引き続き、僕の作詞方法についてです

さてBメロです。

Bメロは無い曲もあります。
その場合、Bメロの役割を果たすのはAメロのラスト1~2行です。

Bメロは、サビの前のタメ、もしくは助走です。
タメであれば、どこまでスピードを落とし、サビで爆発できるか
助走ならば、サビでトップギアに入れるためのスピードを出せるか
そういう内容が求められます。
まぁ、僕はできていないことも多いですけどwww

そのためには、どういった内容を書けばいいのか?
僕の手法では「泣き」「チラ見せ」です。

Aメロでは出し惜しみしていた「感情描写」をこの辺りから投入します。
ポイントは「実は…」です。

Aメロでは見せていなかった感情。
その裏には「実は◯◯◯◯」という気持ちがあるんだよ、というのを書くことで、説明にもなりつつ、Aメロで語った内容を補強することにもなります。

「キマイラ」
(1番)
震えているのは 熱のせいじゃない
身体の奥で飢える 忌むべき獣 
(2番)
地獄ならこの胸に 祈りなら犬の餌
怒りと裏腹 ひどく冷えてゆく心

「霊能少女の繁栄と衰退」
ギラリと輝く眼鏡の向こうで
ここじゃない何処かを見つめ過ぎているのかい?

「銀河放浪ミラーツインズ」
神様はいつも 日陰を見ない 救う気もない


キマイラ」はそこそこ分かりやすい例かなー。
霊能少女~」は、ここで初めて少年が少女をきちんと見ます。
それまでは客観的に少女を観察していた少年が、このBメロ部分で初めて物語に積極参加してくる。
一種の「実は…」ですね。
ミラーツインズ」でも、ここでそれまで見せていない生の感情を出しています。
神様なんて信用できない…だから! 的な。

チラ見せ」ってのは、ここで全ての感情をご開陳しないということです。
大事な部分はサビまでとっておくこと。
隠していた気持ちが、ついポロリと出てしまった…くらいが個人的にはベストかなと思っています。

気を付けるべきは、おそらくですがBメロってのはAメロより短いことが多い!!
なので、詰め込める情報量は多くありません。
高速詠唱やラップなら、多めに言葉を入れられるんでしょうが、僕の場合はまずありませんwww


そしてサビです。
僕の場合、サビには幾つかのパターンがあります。
まず感情爆発・噴出系

「キマイラ」
(1番)
心散り散りに 繋ぎ合わせた身体に宿るはキマイラ
赤く塗りつぶせ 弄ばれた生命の行き着く先の深淵
(2番)
夢も散り散りに 掌をこぼれ落ちた 僅かな温もり
赤く染め上げろ ここから見える景色を目茶苦茶にしたいだけ

「君は無慈悲な僕の女王」
遠い未来で 約束の地で 再び会えるというのなら
幾星霜の時の流れも 怖くない
忘れないんだ 離れないんだ 君の声 君がくれた言葉
世界の果ての この砂浜で 君を待つ
わがままで ごめんね

「ホシコエ」
20光年彼方から 君に届いて I Love You!
時間さえ曲げてしまえばいい


タメにタメた感情を一気に爆発!! 神楽坂エクスプロージョン!!
キマイラ」なんて「ここから見える景色を目茶苦茶にしたいだけ」ですからね。
よっぽど嫌なことあったんだろうなw
爆発、ではないですが、「君は無慈悲な~」は決意と謝罪が一気に噴出してます。
ホシコエ」は恒星間恋愛ですからね、ストレス溜まってるんでしょう。
時間曲げるって何だよ!?という、なんか勢いで言っとけ、みたいなフレーズです。

感情爆発・噴出系は、まずとても分かりやすい。
感情移入し易いタイプの歌詞になります。
ってもね、僕の場合、SF設定だと感情移入しようにも、環境が違い過ぎてwww


もう一つのパターンとして、タイトルに収斂させる方法があります。

「ゆらぎの宇宙、恋と未来」
ゆらぎの宇宙 恋と未来 平行世界の片隅で
君を思い出す日々が 新たな思い出になる連鎖
連なる宇宙 その一つで また別の僕が君と出会う
オマエは上手くやれよ、と 苦笑いで呟いてみる

「恋の秘法はネクロノミコン」
恋の秘法はネクロノミコン!
障害もなんのその ライバルも蹴散らすよ!
だからアタシ(儀式を)やり遂げるよ! 旧支配者(かみさま)お願い
星辰(ほしぼし)の彼方から アタシの恋を応援して!

「Ride On Time」
Ride On Time かき分けたディラックの海
君に捧げる 時間を止めるほどSweetなGravity
Ride On Time 光跡の向こうから I say 「Hello,hello!!」
二万光年向こうで待ってる

「灰と青春」
隣り合わせの灰と青春
わたし達は慣れてゆく
死色の迷路と生きるための略奪
生命に値札をつける日々


これは、それまでに紡がれた言葉のベクトルを全て、タイトルになっている言葉に吸収させていく手法です。
ぶっちゃけ言うと、1番難しいです。
それまでの言葉全ての方向をコントロールして、タイトルに集めていかなければならないので。
同時に全ての言葉を
オッシャーうちにまかしとき!!
とばかりに受け止めてくれるグレートな言葉をタイトルに据えなければならない、という難しさもあります。
本来、タイトルってのはそうでなきゃいけないんですけどね…orz
僕もあんまり使いません。

しかし、これの変則としてタイトルを最後の1行に持ってくる、というのがあります。
この方法は、適度な難易度ですし、感情コントロールもし易く、情報量も適度に詰め込めます。

「銀河放浪ミラーツインズ」
虚飾の星空 撃ち抜くブラスター
嘆きの歌は捨ててきた
君のその叫びが 星の海を越え 
ヴォイドを切り裂き 駆け抜けろスターシップ
刻の涙を振り切って
相転移砲 照準よろし! ミラーツインズ

「サクラフィクション」
サクラ舞い散る道を二人乗り ペダルは軽く 僕ら笑い合う
どこまでも行けると思ってた 二人なら行けると思った
サクラハラハラ 降り注ぐ道 僕はスピードを上げた
自転車が止まったら君は きっと消えちゃう
きっと消えちゃう
さよならはまだ サクラフィクション
  

ただし、このパターンを使う時の注意点。
上手く使わないと…ヒーロー物っぽくなってしまいます
ミラーツインズなんて(ハナから狙ってますが)完全にそうでしょ?
最後にヒーローの名前叫ぶ!! になっちゃうんですね。
サクラフィクション」だって、見様によっては「神世紀散華サクラフィクション」OPテーマ!! みたいにも見えるでしょ?www


さて、ここまで説明した作詞方法。
ここまで書いておきながら、まったく違うやり方で作っていることもあります。
例えば、「Star Maker」なんてAメロで感情描写、Bメロで映像描写と、役割を逆にしています。
少女カナリアと煉獄」「星から来たるもの」は、こうしたセオリーを取っ払って、ストーリー描写に徹しています。
静かの海の片隅で」ではBメロでタイトルワードが出てきちゃいます。
Summer Fiction」に関しては、もうイメージの赴くままに言葉を連ねています。

また、1番と2番、3番の関係というのも重要です。
特にストーリーがあるような楽曲の場合、どんどんストーリーを展開させていかなければいけません。
手前味噌で悪いのですが、僕の「霊能少女の繁栄と衰退」の場合、少年の少女への好意を1→3でどんどん進ませています。

「霊能少女の繁栄と衰退」(サビ抜粋)
(1番)
見えなくてもいいよ 別に見えててもいいけど
僕は君のアイデンティティになんて ちっとも興味は無くって
今はただやたらに瞬き繰り返す
ツヤ消しブラックの君の瞳に恋しているよ
(2番)
信じててもいいよ 別に信じてなくてもいい
僕は君を包み込むおとぎ話に興味は無い
だけど今の君にそれが必要ならば
少しだけ何かを演じてみても悪くはない
(3番)
見えることにしようよ ホントに見えててもいいけど
僕は君の物語を密かに愛し始めてる
いつの日かギラリと輝く眼鏡を外せる時まで
仕方ないな、と見守るから

信じてもいいよ 君を守る巨大なウソ
僕は君を包み込んだおとぎ話の立会人
今はただ真っ赤に腫らしたつぶらな
真実映さぬ君の瞳に恋しているよ


最後にはレンくん、結局ゾッコンじゃないですか!?と言いたくなるような状態です。
はー、デレデレっすよ、やってらんねぇや、って感じですね。


で、このように作った歌詞。
完成してからも問題はあると思います。

1.メロディの譜割りと合わない\(^o^)/オワタ
2.言いたいことはまだあるのに、収まり切らない\(^o^)/オワタ
3.ボカロに歌わせたら、上手く発音しない\(^o^)/オワタ

代表的なのは上の3つですかね。

この場合、僕は…
1. → メロディ(譜割り)を変えちゃいます!!
2. → 曲の尺を伸ばします。構成ごと変えます!!
3. → 歌詞を書き換えます!!

ここが作詞者 = 作曲者の利点であり、欠点でもあります。
好きに変えていいんだから。
制約が無いんだよね。
それってどうなのか? と思うことはある。

去年の最後にUPしたカバー曲「雷光サステイン」をリンに歌わせていて思ったのは、雷鳴Pさんは1番と2番以降、結構譜割りを揃えてるんですよね。
わざと変えて変化を出してるところもありますが、たとえばAメロの譜割りはほとんど一緒だったと思う。
「すげぇ…」って思いましたもん。
僕の曲、歌わせてみれば分かりますけど、そんなに綺麗に譜割り揃わないですよ。
今、数えてみたら「キマイラ」のAメロとか、2番の方が2音くらい多いし。

制約ある中で、きっちり作れる人の方が、僕としては凄いなと思ってしまう。



と、ここまで長々と作詞について書いてみました。
真似してもビッグヒット狙えないことは確実だがwww
という訳で、良い子はマネすんな!!  

Posted by Plutonius at 00:19Comments(1)

2013年01月08日

作詞の作法。

皆様、あけましておめでとうございます。
先日は正月休みにかこつけて古い文章などみつけてしまい、深夜のアッパーなヴァイブレーションがWorld Wide Webにそれを晒すという、いい塩梅すぎるプレイに出てしまったハヤカワPです。
ちなみに小学生のころ「塩梅」は「しおうめ」だと思っていました。
いいしおうめって…www

さて、新年あけまして曲はバンバン作ってますよー。
もう2曲作りました。
UPはもうちょい先だと思うので、待っててちょ。

でもって今日は、需要はあるのか!?僕の作詞作法について書いてみようと思います。

僕は作曲もボカロの調声も、そして作詞も自分でやっちゃうPですので、作詞専門の方では実現しにくい手段を取ったりもしますので、そこはあしからず。

世の中には「詞先」「曲先」という言い方があります…ん、あるのか!?
要するに歌詞を先に作るのか、曲を先に作るのか、ということです。
この分類でいくと僕は9割型、「曲先」になります。
歌詞の書き溜めは一切しません。

ただ、曲が先とは言っても、曲を書く前にぼんやりとしたイメージだけは先行しています。
たとえば、「キマイラ」であれば「合成生物」というイメージが最初からありました。
多分、この文を読んだ大多数の方は「それ、どんなイメージだよ!?」と心の中でツッコんだことと思われます。
声に出してもいいんだよ。
で、この場合「合成生物」の具体的な映像が浮かんでいるわけではございません。
「合成生物」というが浮かんでいるのです。
漢字の感覚、語感…そういったモノが曲のイメージになっています。
「合成」って語と「生物」って語、それぞれのもたらすイメージと、それらを繋ぎ合わせた時の感覚。
これが根幹になって曲が作られます。

で、曲が作られました。
メロディは適当な音色で打ち込んであります。
ターン、タタタン、タン…など、既に譜割りされた状態です。

ちなみに僕は曲を作った後、一旦ギター弾き語りで歌ってみますが、その際は
にゃーにゃーにゃ、にゃー♪
と歌ってます。
これ、昔からの癖なんですよ。謎!
なので、僕の作った曲にはすべて「猫語」バージョンがあるのですにゃー!!

さてここに歌詞を付けていくわけです。

サビから付ける…ということが無いわけではありませんが、殆どAメロ、平歌から歌詞を書いていきます。

では、例として僕のボカロ処女作「Closed Time Leaper」を見てみましょう。

「Closed Time Leaper」
いつか見たよな そんな風景が めまぐるしく入れ替わってゆくよ
映し出された幾つものビジョン さよなら 少しお別れだね


この曲は、このAメロからスタートします。
この歌詞、わかりにくいっちゃあわかりにくいんですが。
様々な映像が空中に映し出されている絵を思い浮かべてください。
∀ガンダムでいくつもの黒歴史が、映像記録として一気に再生されたシーンを思ってもらえると近い。

僕の実感として、最初の歌詞は「映像描写」「状況描写」から始めると書き易いです。

「もうひとつの夏へ」
かすかに煙る空
もうひとつの夏を思い出す

「科学少女への憧憬と現実」
部屋着も白衣と噂されてる
もちろん白衣で登校してる

「サクラフィクション」
それはよく晴れた日の午後
長い長い春休みは突然
終わっちゃった
何の前触れもないまま

『霊能少女の繁栄と衰退』
教室の片隅見上げ 首を傾げる君
何でもないよと言いながら こっそり渡されたメモ


この映像描写や状況描写で始める理由は、まず説明が必要だからです。

というのもね、僕の曲の題材は「非日常」が基本。
そうなると、まず世界観の説明が必要なのよ。

今の僕らの生活している現実と地続きではないよ、ということをまず分かってもらわなければならないので。
あ、でも霊能少女と科学少女は現実と地続きだwww

必ずしも映像につながる言葉を入れなくても、説明が成立すれば問題ありません。

「君は無慈悲な僕の女王」
100年ぽっちも生きられないのに 1000年も動く僕を作るなんて
おかしいね 理解できないよ 無責任だね おいていかないでよ

この「君は無慈悲な~」は映像描写こそありませんが、出だしの2行で状況をほぼ説明しきっています。

「Night Walker」
ひどく冷えた土の中で 目を覚ませば
土を掻いて折れた指は 痛みすらも無く
誰が僕をここに埋めた? ここは何処だ?
そして僕はオレはワタシは誰だ?

これも最初のAメロでシチュエーションを理解できるように作られています。
「土の中」「目を覚ます」「指が折れても痛くない」「埋められた」「記憶が無い」

死体が蘇ってる? ゾンビ?

といった感じです。


Aメロが2回以上入る場合には、状況・映像描写をさらに補足していきます。

「少女カナリアと煉獄」
八番街の路地を曲がれば 見えるだろ 赤い扉が
彼女がかつて 歌ってたのさ 陽が沈めば ショーの時間

安い香水 趣味の悪いドレス 似合いの古びたステージ
歌えればいい それだけでいい 化粧落とし彼女は言った


僕の手法として、Aメロでは直接的な感情描写を避けます
理由はBメロやサビとの差を付けるため、です。
感情要素は、曲最大の盛り上がりに繋がります。
なので、Aメロで直接的な感情描写をしてしまうと、以降との差が付けにくいんですね。
歌詞の盛り上がり部分は、メロディの盛り上がり部分のためにキープしておくことが歌詞のダイナミズムに繋がると思っています。

逆に淡々と映像や状況を描写していくことで、抑えた感情が表現できることもあります。



さてBメロ…といきたいところですが、長くなりましたので。
一旦、切ります。  
タグ :ハヤカワP


Posted by Plutonius at 22:17Comments(0)

2013年01月03日

二次創作してみた。

数年前に書いた文章を某SNS上で発見しました。
…何書いてんだオレワ…orz
と、ちょっとのた打ち回りましたが、過去のことなら恥ずかしくないモン! というタイプの人間なので、ここにUPします。
笑っていただければ、これ幸いかな。

皆さんもよく知っている、ある男についてのお話です。


少年が言葉を覚えると同時に、母親は幾度も幾度もその長ったらしい名前を唱えさせた。
だから少年の記憶にある最も古い光景とは、隙間風の入り込む部屋と壊れたロッキングチェアー、そして呪文のようにその名前を唱える母親の曲がった背中である。

少年は炭鉱の町に生まれた。
もっとも既にエネルギーとしての石炭の需要はピークを過ぎており、かつての繁栄の残滓にすがるうらぶれた町の姿が彼の原風景だった。
――町を渡る風にも、炭鉱からの粉塵が混じっているような気がする。
そんなことを思いながら、見上げる空は常に曇天で少年の気分を滅入らせる。
空を覆った雲の向こうには何があるのだろう――そればかりを思いながら、少年は育った。

町の最縁――あまり町の人間も近づかない地域に、彼の暮らす家はある。
母と自分、2人だけの家。
家族のために炭鉱で何年も粉塵を吸い続けて体を壊した父は、少年が幼い頃に他界していた。
炭鉱の側の食堂で、安い給金で身を粉にして働く母親が少年を養っている。

私たちはもっとも古い血筋に連なるのよ…

と誇らしげに語る母親の姿が滑稽に見え始めたのは、少年が小学校を卒業した頃だった。
嫌になるほど聞かされた『あの言葉』。
先祖が暮らしていたというその場所、その名前。
両手で耳を塞いでも、呪いのように脳裏に響き渡る母の声。
世の中のことが少し分かるようになっていた少年は、母の言葉を妄言と断じた。

「今の貧しい暮らしを否定するために、本当はこんなんじゃないのよ、っていうために母さんは『あの言葉』を唱えているんだ」

そんな風に自分の母親を『可愛そうな人』として捉え、少年は今の環境から抜け出すために努力を始めた。
「母親のようにはなりたくない」
「この家を出て、町を出て、いい暮らしをしたい」
まだ10代の少年が抱く目標はあまりに具体性に欠けていたが、それでも奮起の材料にはなった。
小学校を卒業して、炭鉱で働きながら少年は勉強を始めた。
幸いにも彼にはその才能があり、2年遅れで上級の学校へ特待生進学することができた。
学校の寮に入るため、家を出ることになったその日の朝、玄関先まで見送りにきた母は誇らしげに笑いながら少年に告げた。

お前ならやれるよ。何しろ私たちは     の血に連なる者なのだから…

もうしばらくこの妄言を聞くこともないと思えば、嘘でも優しくできる――少年はそんな風に育っていた。

そうだね、母さん。僕は    の王族だからね

そう言って少年は、別れの朝には不似合いな理知的な笑いを浮かべた。


上級学校に上がってからの少年の躍進にはめざましいものがあった。
日々の暮らしに追われることのない環境で、少年は自分の能力を最大限に開花させていく。
成績だけではなく、巧みな弁舌による人心の掌握は上級学校の教授陣も舌を巻くほど。
飛び級で最上級学年に上がり、首位の成績を収める彼の元へは国軍からのスカウトが来ているという噂まである。

彼は自分の将来の道に軍属を選ぶつもりだった。
それは現在の彼の取り得る道の中で、最上の選択だと言えた。
噂だけではなく、実際に彼の元には軍からのスカウトも来ている。
彼自身だけではなく、誰が見ても順風満帆の人生のスタートを切ることができる――はずだった。


母親が死んだ。
炭鉱の中に弁当を運んでいて、落盤に巻き込まれたらしい。
悲しくはなかった。
彼の中で何年も前に、母親はその妄言と共に死んでいたのだ。
だから卒業を目前として故郷の町に帰ったのも、世間体ゆえの行動に過ぎなかった。

母親の遺体は、まだ発見されていなかった。
重い岩の下に未だ眠っているらしい。
とはいえ、生存を信じるほど彼は楽観的ではない。
落盤事故から3日。
炭鉱の町に育った者ならば、その意味は痛いほどにわかっている。

5年ぶりに生家に戻った。
彼が14歳まで暮らしていた家はあまりに小さく、あまりに煤けてみすぼらしく見えた。
縁の欠けた暖炉、壊れたロッキングチェアー、隙間風の入る薄い壁。
何一つ変わってはいなかった。
母が『あの言葉』を唱えていた頃と、何一つ。

遺品の整理をしていたときに、彼はそれをみつけた。
母親の洋服ダンスの奥、流行遅れの服の中に何の工夫もなくその木箱はしまわれていた。
特に意図もなく、彼は蓋を開く。
蓋の隙間から溢れる青い光が、彼の顔を照らした。



それは、青く透き通った石だった。



瞬間、彼は理解した。
石の言葉を。
石の伝える真実を。
そして自分の愚かさを。
母の言葉を妄言と決め付けた自分の狭量さを。

なぜ母の言葉を虚妄と決め付けたのだろう。
なぜ母を『可愛そうな人』と思っていたのだろう。
なぜ母の言葉を信じなかったのだろう。
その『島』は確かに――空にあるというのに!

幾筋も幾筋も、彼の頬をとめどなく涙が伝う。
抑えた口からは嗚咽が漏れた。
母への懺悔と、そしてこれを自分に託してくれた母への感謝に彼は泣いた。


もう後戻りはできなかった。
母の遺志を継ぐために。
いつの日かそこに帰ることを願い、志半ばで散っていった一族のために。

必ず…辿り着くよ…母さん…

あの『島』に辿り着くためなら、何だってしてやる――。
眼鏡を外し、涙を拭う。
並ならぬ決意が彼の顔に満ち溢れていた。
彼――ムスカは手の中の石を握り締め、暗い声でその『島』の名をつぶやいた。
  

Posted by Plutonius at 04:05Comments(0)