2013年01月03日

二次創作してみた。

数年前に書いた文章を某SNS上で発見しました。
…何書いてんだオレワ…orz
と、ちょっとのた打ち回りましたが、過去のことなら恥ずかしくないモン! というタイプの人間なので、ここにUPします。
笑っていただければ、これ幸いかな。

皆さんもよく知っている、ある男についてのお話です。


少年が言葉を覚えると同時に、母親は幾度も幾度もその長ったらしい名前を唱えさせた。
だから少年の記憶にある最も古い光景とは、隙間風の入り込む部屋と壊れたロッキングチェアー、そして呪文のようにその名前を唱える母親の曲がった背中である。

少年は炭鉱の町に生まれた。
もっとも既にエネルギーとしての石炭の需要はピークを過ぎており、かつての繁栄の残滓にすがるうらぶれた町の姿が彼の原風景だった。
――町を渡る風にも、炭鉱からの粉塵が混じっているような気がする。
そんなことを思いながら、見上げる空は常に曇天で少年の気分を滅入らせる。
空を覆った雲の向こうには何があるのだろう――そればかりを思いながら、少年は育った。

町の最縁――あまり町の人間も近づかない地域に、彼の暮らす家はある。
母と自分、2人だけの家。
家族のために炭鉱で何年も粉塵を吸い続けて体を壊した父は、少年が幼い頃に他界していた。
炭鉱の側の食堂で、安い給金で身を粉にして働く母親が少年を養っている。

私たちはもっとも古い血筋に連なるのよ…

と誇らしげに語る母親の姿が滑稽に見え始めたのは、少年が小学校を卒業した頃だった。
嫌になるほど聞かされた『あの言葉』。
先祖が暮らしていたというその場所、その名前。
両手で耳を塞いでも、呪いのように脳裏に響き渡る母の声。
世の中のことが少し分かるようになっていた少年は、母の言葉を妄言と断じた。

「今の貧しい暮らしを否定するために、本当はこんなんじゃないのよ、っていうために母さんは『あの言葉』を唱えているんだ」

そんな風に自分の母親を『可愛そうな人』として捉え、少年は今の環境から抜け出すために努力を始めた。
「母親のようにはなりたくない」
「この家を出て、町を出て、いい暮らしをしたい」
まだ10代の少年が抱く目標はあまりに具体性に欠けていたが、それでも奮起の材料にはなった。
小学校を卒業して、炭鉱で働きながら少年は勉強を始めた。
幸いにも彼にはその才能があり、2年遅れで上級の学校へ特待生進学することができた。
学校の寮に入るため、家を出ることになったその日の朝、玄関先まで見送りにきた母は誇らしげに笑いながら少年に告げた。

お前ならやれるよ。何しろ私たちは     の血に連なる者なのだから…

もうしばらくこの妄言を聞くこともないと思えば、嘘でも優しくできる――少年はそんな風に育っていた。

そうだね、母さん。僕は    の王族だからね

そう言って少年は、別れの朝には不似合いな理知的な笑いを浮かべた。


上級学校に上がってからの少年の躍進にはめざましいものがあった。
日々の暮らしに追われることのない環境で、少年は自分の能力を最大限に開花させていく。
成績だけではなく、巧みな弁舌による人心の掌握は上級学校の教授陣も舌を巻くほど。
飛び級で最上級学年に上がり、首位の成績を収める彼の元へは国軍からのスカウトが来ているという噂まである。

彼は自分の将来の道に軍属を選ぶつもりだった。
それは現在の彼の取り得る道の中で、最上の選択だと言えた。
噂だけではなく、実際に彼の元には軍からのスカウトも来ている。
彼自身だけではなく、誰が見ても順風満帆の人生のスタートを切ることができる――はずだった。


母親が死んだ。
炭鉱の中に弁当を運んでいて、落盤に巻き込まれたらしい。
悲しくはなかった。
彼の中で何年も前に、母親はその妄言と共に死んでいたのだ。
だから卒業を目前として故郷の町に帰ったのも、世間体ゆえの行動に過ぎなかった。

母親の遺体は、まだ発見されていなかった。
重い岩の下に未だ眠っているらしい。
とはいえ、生存を信じるほど彼は楽観的ではない。
落盤事故から3日。
炭鉱の町に育った者ならば、その意味は痛いほどにわかっている。

5年ぶりに生家に戻った。
彼が14歳まで暮らしていた家はあまりに小さく、あまりに煤けてみすぼらしく見えた。
縁の欠けた暖炉、壊れたロッキングチェアー、隙間風の入る薄い壁。
何一つ変わってはいなかった。
母が『あの言葉』を唱えていた頃と、何一つ。

遺品の整理をしていたときに、彼はそれをみつけた。
母親の洋服ダンスの奥、流行遅れの服の中に何の工夫もなくその木箱はしまわれていた。
特に意図もなく、彼は蓋を開く。
蓋の隙間から溢れる青い光が、彼の顔を照らした。



それは、青く透き通った石だった。



瞬間、彼は理解した。
石の言葉を。
石の伝える真実を。
そして自分の愚かさを。
母の言葉を妄言と決め付けた自分の狭量さを。

なぜ母の言葉を虚妄と決め付けたのだろう。
なぜ母を『可愛そうな人』と思っていたのだろう。
なぜ母の言葉を信じなかったのだろう。
その『島』は確かに――空にあるというのに!

幾筋も幾筋も、彼の頬をとめどなく涙が伝う。
抑えた口からは嗚咽が漏れた。
母への懺悔と、そしてこれを自分に託してくれた母への感謝に彼は泣いた。


もう後戻りはできなかった。
母の遺志を継ぐために。
いつの日かそこに帰ることを願い、志半ばで散っていった一族のために。

必ず…辿り着くよ…母さん…

あの『島』に辿り着くためなら、何だってしてやる――。
眼鏡を外し、涙を拭う。
並ならぬ決意が彼の顔に満ち溢れていた。
彼――ムスカは手の中の石を握り締め、暗い声でその『島』の名をつぶやいた。


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